~働く人のための実践ガイド~
■ はじめに
猛暑が続く日本の夏。毎年、職場における熱中症による死傷者は後を絶ちません。厚生労働省によると令和6年には1,195人が熱中症で労働災害となり、そのうち30人以上が命を落とす深刻な事態となりました。
特に建設業・製造業・運送業など、屋外や高温環境で働く職場ではリスクが非常に高く、事業者と働く人の双方に具体的な対策が求められています。
2025年6月1日に施行された「労働安全衛生規則の一部改正」により、企業には熱中症予防に関する対応がこれまで以上に求められることとなりました。
この記事では、その内容に基づき、現場で今すぐ実践できる熱中症予防法を紹介します。

【1】熱中症とは?── “命に関わる災害”
熱中症とは、高温多湿な環境下で体温調整がうまくいかなくなることで発症する身体障害の総称です。
▶ 主な症状
【他覚症状】ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗、痙攣
【自覚症状】めまい、筋肉痛・こむら返り、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、高体温
▶ 基本的な考え方「見つける・判断する・対処する」
【見つける】
作業中にフラついている人や大量の汗をかいている人はいませんか?
いつもと様子が違う、返答が不自然な場合も要注意!
【判断する】
声をかける:「大丈夫ですか?」「気分悪くないですか?」
判断に迷ったら:#7119(救急安心センター事業)を活用!
【対処する】
異常がない → 水分・塩分補給 → 様子観察 → 回復しない場合は搬送
異常がある → 作業離脱・身体冷却 → 救急搬送(119)をためらわずに!

【2】WBGT値(暑さ指数)を見える化!
WBGT(湿球黒球温度)値は、暑さによる身体への負荷(熱ストレス)を数値で示す指標です。
▶ WBGT値の目安
WBGT値28℃以上または気温31℃以上 → 熱中症のリスク大!
作業環境が「暑熱な場所」に該当します。
※暑さ指数は環境省熱中症予防情報サイトに記載されています。
▶ 実践ポイント
WBGT指数計を現場に持参・設置
スマホアプリ(環境省LINE公式アカウント)や環境省の熱中症予防サイトも活用
作業場所ごとの実測が基本ですが、毎回の天気予報(熱中症警戒アラート)や外気温も判断材料に。

【3】暑熱順化──「慣れ」が最大の予防策
暑さに体を慣らす「暑熱順化」は、最も効果的な予防法のひとつです。
▶ 実践ポイント
新しい作業員や復帰者には、軽作業から徐々に慣らす
初日は短時間、数日かけて徐々に時間・作業量を上げる
連続作業後の中断で順化はリセットされる(4日で消失、3週間で完全に消失)
【4】休憩の取り方──「だらだら作業」が最も危険!
▶ 実践ポイント
1時間ごとに10~15分は必ず休憩
冷房・日陰・ミストファンなど、WBGTが下がる場所で休む
ゆっくり休めるスペースが理想
冷たいおしぼりや氷など体を冷やす備品があれば理想的
ファン付き作業着、帽子、ヘルメットの着用など

【5】水分・塩分補給は「気づく前」に!
▶ 実践ポイント
20〜30分ごとに1〜2杯(約200ml)の水を飲む
0.1~0.2%食塩水 or スポーツドリンクが理想
塩分制限がある人は必ず主治医に相談

【6】報告体制の整備──「報告する仕組み」をつくる!
2025年6月から、「熱中症が疑われる場合の報告体制整備」が事業者に義務化されました。
▶ 実践ポイント
「誰に・どうやって報告するか」明文化
バディ制(2人1組で互いに体調確認)や、巡視・ウェアラブル機器の活用
緊急連絡先は現場の見やすい場所に掲示

【7】もしもの時の手順──「迷わず、すぐ行動!」
▶ 必須の対応手順(抜粋):
異常発見時はすぐに責任者に報告
回復しなければ冷却・医療機関搬送
一人にしない、付き添う
回復後も「急変」の可能性あり、帰宅後の注意喚起も
■ おわりに
熱中症は「見逃し」「我慢」「過信」が命取りになります。
2025年の改正法令は、「早く気づき、すぐに対応する体制」の構築を事業者に求めています。
「暑さをなめない」「声をかける」「すぐ冷やす」
これだけで、多くの命が救えます。
現場で働くすべての人が、安心して夏を乗り越えられるよう、今こそ実践を始めましょう。
出典元 厚生労働省 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施工等について; 厚生労働省 職場における熱中症対策の強化について
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